地球深部に相当する高圧条件での分光学や結晶学を中心としながらも、さまざまな研究テーマに挑戦しています。
純鉄に比べて外核では10%、内核では4%の密度欠損があることから、何らかの軽元素が核に取り込まれていると考えられています。私たちは、軽元素の重要な候補である水素に着目し、中性子回折という独自の手法を駆使して、高温高圧下での鉄水素化物の水素固溶量を含む結晶構造、相関係、熱力学的性質を明らかにする研究を行っています。
最近、私たちは鉄の結晶構造中に水素以外の軽元素が存在すると、鉄に対する水素の取り込まれ方が大きく変化することを、鉄と水素の他に、ニッケルや硫黄を含む系で解明してきました。このことは、これまで行われてきたような、鉄・水素の2成分系で決められた値を用いた議論が、実際の地球核を考えるにあたって不正確であった可能性を示唆しています。
現在は、このテーマをさらに深く掘り下げ、水素と鉄の他に第三の軽元素が含まれる系に対して水素がどのように取り込まれるか、網羅的に調べようとしています。それらを総合すれば、地球核の軽元素量に対して実験的な制約を与えることができると考えています。
水はもっとも身近な物質ですが、同時にさまざまな未解決問題をもつ不思議な物質です。
水に室温で圧力をかけていくと、1 GPaを超えたあたりで、ice VIと呼ばれる氷に結晶化します。この氷は通常私たちが目にする氷とは別の結晶構造をもつものです。このice VIに代表されるように、氷には20を超える多形 (結晶構造の異なる相) が存在します。我々は最近、高圧下での誘電率測定と中性子回折を組み合わせて、ice XIXと呼ばれる、新しい結晶構造をもつ氷を発見しました。その他にも、積層不整のないice Icの作製に成功したり、ice VIIの詳細な結晶構造・プロトンダイナミクスを解明したりと、氷に関する新しい知見が次々得られています。
また、氷の高圧相 (ice VII) は10 mol%以上の塩を取り込むことができますが、高圧下における氷-塩系の相図と結晶構造は今だ明らかではなく、私たちの重要な研究テーマとなっています。こうした系を調べることは、単に氷の物理化学的な理解が深まるだけでなく、ゆくゆくは氷惑星の内部構造を考える上で重要な知見をもたらすことができると考えています。
炭酸カルシウムは貝殻に代表されるように典型的なバイオミネラルです。炭酸カルシウムには、カルサイト、アラゴナイト、ファーテライトの3種類の多形が存在し、バイオミネラルとしてもこれらの3種類の多形が存在します。これらの多形に加えて、アモルファス炭酸カルシウム(ACC)もバイオミネラリゼーションの前駆体として機能しています。
私たちは、ACCを加熱したり加圧したりすることでカルサイトなどの結晶が得られることに注目した研究を行ってきました。ACCは構造に柔軟性があるため、ACCから結晶化させたカルサイトは、通常は取り込まれないSr2+やBa2+といった大きなイオンも取り込むことができます。Sr2+やBa2+をドープしたカルサイトの詳細な構造を多角的に調べると、室温下でも特異的な挙動をすることが明らかになりました。
鉱物中の元素の振る舞いを調べることは、地球深部で物質がどのように循環しているかを知る上で大切です。私たちは実験室系での高圧実験を通してこれらの問題に取り組んでいます。
たとえば、地表にやってくるマントル包有物の組成・構造情報から、マントルの状態が推測できますが、天然試料からの情報は限定的で、かつ、複数の過程を経ている可能性が高いと考えられます。天然試料からの情報をより精緻に理解するためには、実験室における実験が有用です。私たちは実験室においてコントロールされた温度可変条件を作り出し、特定の鉱物中で元素がどのように振る舞うかを調べています。水素・窒素・フッ素などの元素が現在の関心です。
私たちは、ベンゼンやナフタレンといった基本的な有機分子の高圧実験を行い、高圧で特徴的なオリゴマー化やアモルファス化の反応が起こることを明らかにしました。たとえばナフタレンは18 GPa程度の圧力で完全かつ不可逆的にアモルファス化し、脱圧しても元には戻りませんが、高圧で生成したアモルファスナフタレンも芳香族的な構造はある程度保持します。
また、生体分子の構成要素であるアミノ酸についても高圧実験を行ってきました。従来、アミノ酸のペプチド化は高温条件、あるいは触媒の存在下で進行すると考えられていましたが、私たちは高圧条件下であれば、室温でアラニンのペプチド化が起こることを発見しました。
氷衛星や氷惑星の内部で生体関連分子が生成する可能性について、高圧実験から検討しています。
News ページでは、最近出版した論文を紹介しています。最新の研究の内容が垣間見えると思います。